2019年4月1日月曜日

プロジェクトの意義

1.人口オーナス期と潜在的労働力(解決すべき社会的課題)

我が国は1990年代に労働力人口の減少が始まり、いわゆる「人口オーナス期」に入った。1960年代から1990年代までの労働力人口増加期(「人口ボーナス期」)の経済的成功体験、即ち、上意下達、長時間労働による大量生産方式ではもはや日本経済を発展させることは不可能である。今我が国に必要なのは、(1)潜在的な労働力を掘り起こすこと、そして、(2)その労働力を新たな発展の源泉とすることである。

経済産業省資料より

2.潜在的労働力としてのシニア世代

潜在的な労働力とは、現在経済のメインストリームの役割を果たしていない人々、即ち、女性、シニア、高等教育を受ける機会を享受できなかった人々、障害を持つ人たち等である。分けてもシニアは豊富な経験・知識を持っており、アメリカなどの一部先進諸国では現役として社会の重要な構成員であるにもかかわらず、わが国では強制的に労働力から排除されている。従って、条件さえ整えればシニアを生産的労働力として呼び戻すことは比較的容易であると考える。

3.シニア世代の能力をイノベートする教育 ―そのための研修機関の必要性―

シニアは人口ボーナス期を経験してきた世代であり、社会の変化にそのままで十分に対応できるとは限らない。しかしながら、できるだけ多くのシニアを現代の問題解決のためのヒントの源泉とすることは、日本経済の活性化、新たな創造を起こしやすい社会環境の整備の為の必須条件である。そのための方法の一つとして、我々はシニアを対象にした研修機関の設立を考えている。

この研修機関はただ単に職業教育を施すのではなく、その一段上のレベルを目指したものである。つまり、新しいアイデアを創造するために、地球的規模で、科学・技術の進歩、社会変化、文化的多様性を受け入れ、自らの考えを客観的に表現し、世に向けて発信できる力を与える場所である。同時に、多様で豊富な経験をそれぞれに積んで来たシニア向けの研修は、研修に於ける経験学習により効果的に社会に寄与できるものであり、自ずから若者対象の教育とは異なる。彼らの経験を生かし主体性を重んじる教育でなければならない。特にシニア世代の半ばを占める女性の教育は重要である。また、この世代では体力的な格差が生じやすいため、健康上の相違を超えすべての人々を対象にした教育も無視できない課題である。

4.想定する研修内容

具体的には、男女共同参画意識の覚醒、語学学習の方法、世界事情(情勢)、地球環境・国際環境の変化、学問の方法、リーダーシップ、歴史から学ぶ現代及び未来、ゲノム科学、AI、コンピューター活用、老年学(ジェロントロジー)、文化・生物多様性等を考えている。その基本は、知識、経験、スキルを単に習得するのではなく、人間としての生き甲斐(生きる「意味」の追求)を求めるという崇高な欲求を満たす研修でなければならない。この様に多岐にわたる研修であるが、根底にあるのは、日本、世界の諸問題を過去にとらわれることなく、シニア世代の新たな能力と意識を開拓することである。言い換えれば、シニア世代の能力をイノベートすることにより問題を解決することが本研究の最終目的である。我々のグループは各界トップの研究者集団であり、そのための答えをこの研究によって出す事が出来ると思う。我々のノウハウは一般公開し、多くの人々・組織が同様の取組が出来るモデルとして、広く提供していきたい。

研修機関設立の際に極めて重要なのは科学的に検証された研修計画を作ることである。そのために、この研究ではシニアの現状を正確に把握し、どのような研修が最も効果を上げるのかを調査する。その点で、本研究はイノベーション老年学(Innovation Gerontology)という新たな学問の分野を拓くものでもある。その成果は研修カリキュラム作製、講師の専門性の選定、研修の期間・場所・費用などを決定するための重要な資料となる。この研究成果は広く社会に発信され、我々の考えに賛同する事業体にも共有されることを望んでいる。